桜まち
お互いにスーツからラフな普段着に着替えたあと、私の部屋で飲むことになった。
まさか、また望月さんとこうしてテーブルを間に挟んで向かい合い、自分の部屋で二人っきりになるなんて想像もしていなかった。
しかも、前回の時は、半径一メートル以内には近づけなかったから、かなりの進歩だよね。
ん?
進歩なのか?
お姫様抱っこしてもらったあとに連絡先交換のテーブルで向き合うって。なんか退化している感じ?
まー、なんにしても親密になってきているには変わらないか。
望月さんは、四本のワインのうちどれから飲むかを吟味すると、オープナーでコルクを抜いて香りを楽しんでいる。
私はグラスを用意し、買ってきたチーズやお肉をなるべく丁寧にお皿に並べてテーブルに置いた。
「あ、このチーズ。うまそうじゃん」
望月さんはワインを注ぐ前にチーズをつまみ食いすると、クシャリと顔を崩して親指を立てた。
ああ、なんて素敵な笑顔なんでしょう。
思わず見惚れてしまう。
「しかし。自棄酒でワインを四本買ってくるって、川原さん酒豪?」
「いえいえ。普通ですよ。普通」
実は、酒屋さんでワイン四本と日本酒一升とを迷った、なんて事は口が裂けてもいえない。
良かったよ、まだワイン四本にして。
日本酒だと、完璧にオヤジだもんね。
「で、自棄酒の理由は?」
チーズを一口食べてワインを飲むと、望月さんが訊いてあげるよ。なんて顔をして私の目を覗き込む。
その素敵な顔にドキリとしながら、自棄酒に至った理由を自分なりに整理してみようと口にしてみた。