桜まち
「かっわはらー。メシいかね?」
不意に訪れた佐藤君のお誘いに、思わずパーッと顔が明るくなる。
この際、からかわれていようが、冗談で誘われていようが、暇つぶしの相手だろうかどうでもいい。
何故か気まずさを感じる櫂君とのランチや、一人のランチで寂しさを噛みしめるより、佐藤君のくだらない告白に付き合っているほうがずっとマシに思えたんだ。
「いっ、行く行く」
二つ返事で椅子から立ち上がると、櫂君が驚いて止めに入った。
「えっ! ちょっと待ってくださいよ。僕は、どうなるんですか?」
「櫂君は、ほら。佐々木さんがいるじゃない」
目を見ずにぼそりと零すと、何言ってるんですか。とばかりに櫂君も立ち上がった。
「菜穂子さんとランチできないなんて、つまらないじゃないですか」
櫂君まで、つまらないなんて。
私は、暇つぶしのおもちゃじゃないんですけど……。
「昨日も佐々木さんと一緒だったんだし、今日も一緒に行ったらいいよ。佐藤君、行こう」
「それどういう意味ですか。ちょっと、菜穂子さんっ」
櫂君が引き止めるように言っていても、私はそのまま佐藤君の腕をとり、踵を返す。
残された櫂君がそのあとも何か言っていたけれど、私は耳を塞ぐように足早に席から離れた。
「なんか。よかったのか?」
「ん? 何が?」
「藤本とメシの約束あったんじゃないのか?」
「いいの、いいの」
「まー、俺は。川原と一緒にランチできるのは嬉しいから構わないけど」
佐藤君の言葉はスルーして、私は足早にビルの外を目指した。