桜まち
佐藤君と、会社裏にある手軽な和食屋さんへと入った。
向かい合って座り、出された熱いお茶をすする。
あんな風に出てきてしまったけれど、私は置いてきた櫂君のことが気になっていた。
櫂君、怒ってるかもしれないよね。
意味もわからず避けられるなんて、理不尽だもんね。
だけど、どんな風に櫂君と接していいのか分からなくなっちゃったんだよ。
どうしても、櫂君の顔が見られないんだもん。
だけど、あんな態度されたら、私なら怒るよ。
だから、櫂君だって怒って当然だよね。
それとも、私のことなんか少しも気にせず、今日も佐々木さんとランチへ行っちゃったかな。
佐々木さんのこと、睨んでくる目とか恐いし、あんまり好きじゃないけど。
男目線で見てみれば、可愛い女の子だもんね。
女からしたら判り易いくらい媚びた甘え方だけど、きっと男の人はあれくらいしてくれる子のほうが、一緒に居ても楽しんだろうな。
だから櫂君だって、あんなに楽しそうに昨日はランチしてたんだろうし。
色々と考え込んでいたら、何故だか目の前の佐藤君がマジマジと顔を見ていた。
「なに?」
「俺は、透明人間か? それとも、空気か?」
「何言ってんの? 佐藤君は、佐藤君でしょ」
意味不明な佐藤君の質問に首を捻り、持っていた湯飲み茶碗を置いた。
「落ち込んでるっぽいな、と思って」
「え? 落ち込んでる? 誰が?」
訊ねると、指を指された。
「私?」
今の私って、そんな風に見えるんだ。
「つーか、顔が暗い。まー、暗い顔もなかなかイケてるけど」
いちいち織り交ぜられる言葉が、どれも嘘臭い。
「冗談も大概にして」
呆れていると、鼻で笑われた。