桜まち
「とにかく、自分でもよくわからないの。あんなに好きだって思っていた人とキスできたのに、少しも嬉しくないんだよね。しかも、二度目のキス拒んじゃったし」
「へ? またキスされたの?」
「だから。されたんじゃなくて、されそうになったのを、拒んだの」
「なんで?」
「わかんない」
私は、口を尖らせる。
「はぁ? お前さー。ややこしい性格してんなー。何で素直に喜べないんだよ。好きな人とのキスなんだろ?」
「うーん、そうなんだけどね……」
「なんなら、ためしに俺もしてやろうか?」
「要らないし」
もう、佐藤君てば、いちいち面倒だ。
話したのは、失敗だったかな。
「あ……。お前、もしかして」
「なに、もしかしてって? てか、佐藤君。お前、お前、言いすぎ」
「お前さー」
「だから」
「やましいんだろ」
「……え?」
やましいって何よ。
「うん。きっとそうだ。川原は、やましいって思ってるんだ。だからそのテンションなんだ。ややこしいと思ったけど、意外とシンプルだな。つか、アホだろ」
お前の次は、アホって。
「もう、いいよ。佐藤君に話したのが間違いだった。もう、今のは忘れて。あと、この話。櫂君には言わないでよ」
「ほら。それ。やっぱアホだ」
「なんなのよ。茶化さないでちゃんと教えてよ」
「やだ。俺、完璧に川原の眼中に入れてもらえてないから教えてやんねー。悔しかったら、ちゃんと自分の頭で考えろ。逃げんなよ」
「逃げるって、何から?」
「教えねー」
結局、お前だのアホだの散々言うだけ言って、佐藤君は何も教えてくれなかった。
まったく、なんなのよ。