桜まち 


「佐々木さんのPCは、直ったの?」

咄嗟に浮んだ名前を口走ってしまってから、チョイスを間違えたと慌ててしまう。
何もあのスカートヒラヒラちゃんの話題を出さなくてもいいのに、と自分に激しいど突きをかましたくなってしまった。

「ちょっと時間がかかりましたけれど、直りましたよ」
「よ、よかったね」

はは、なんて笑って誤魔化していると、櫂君は真面目腐った顔で説明してくれた。

「んー。よかったのは僕じゃなくて、佐々木さんでしょうね。僕は、一日拘束されて、菜穂子さんには迷惑掛けちゃったから、本当に申し訳なくて。あ、今日の飲み代、僕が出しますんで。遠慮なくガンガンいってくださいね」
「え。いいよ。ちゃんと払うから」

「いいですって」
「そう? ……わかった。じゃあ、遠慮なく」

櫂君の好意に甘えて、俯き加減でビールをすする。

やっぱり、ビールは美味しいな。

目の前の櫂君も、口元に少しだけ泡をつけてグビグビと煽っている。
その様子を上目遣いで窺いながら、グラスに残っていたビールを一気に飲み干すと、なんだかもう酔ってきたみたい。

昨日、望月さんとワインを四本も空けて平気だったのが嘘のようだ。
やっぱり、櫂君と飲んでいると、気が緩んじゃうのかな。

櫂君といると、楽なんだよね。
どんな話をしても同じように笑えるし。
食べ物の好みも似てるから、注文する時も一致するし。

それに、もし私がヘロヘロになっても、櫂君が一緒なら、送ってもらえるから安心なんだよね。
そう、望月さんと違って、緊張なんて言葉が櫂君との間には、まったくないんだ。
一緒に居て、本当に楽ちんな相手。
楽しめる相手なんだ。

あれ?
こんなせりふ、どっかで聞いたな?
誰が言ってたんだっけ?


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