桜まち
「どうしたんですか。ニコニコして」
「え? そう」
「はい。なんか、凄く楽しそうですよ」
「じゃあ、櫂君のおかげだと思う」
「え?」
「ゆかいな仲間だから」
「なんですか、それ」
櫂君は、ゆかいな仲間と言われて、クスクス笑っている。
「そうそう。昨日、佐々木さんとランチにいったじゃないですか」
そう切り出されて、思わず頬が引き攣った。
そうか、佐々木さんの話はまだ続いていたのね。
なんだか、その名前を出されると一瞬にして楽しさが打ち消されて行く感じがするよ。
「部長には、伝言を頼んでおいたんですけど、聞きましたよね?」
「え? 部長に伝言? なんの?」
私は何も訊いていないと、首をぶんぶん振った。
「え? 訊いてないんですか? 部長~」
櫂君は、頼みますぉ、とここに居ない部長に頭を抱えている。
「昨日は佐々木さんが、PCのお礼にランチは奢らせてくださいって強引に言うし。部長も、行って来い、川原には言っておく。なんてわざわざ修理しているところを見に来て言うから、僕仕方なく、ランチにも行ってきたんですよ」
「何も聞いてなかったよ……」
「じゃあ、もしかして。ランチの時、ずっと待ってました……? ごめんなさい」
「ううん、。大丈夫。戻ってきそうにないなって感じたから、ちゃんと一人で食べにいったから」
「なんか、本当にごめんなさい」
「そんな。謝りすぎだよ。櫂君。部長にまで言われてたんだったら、仕方ないことだし。それに、なんかうまくいえないけど。よかった」
「え? なにがですか?」
「だから。うまくいえないけど、よかったの」
櫂君へ言ったように、言葉にするのは難しいけれど。
部長が間に入っていたと知ったそのワンクッションで、私の気持ちは何故だか救われているんだ。
そのあとは二人ともペースを緩めて飲み、二時間ほどで居酒屋を後にした。