桜まち
「ただ、ひとつ。彼女と約束していたことがあってね」
「約束?」
「五年後、必ずもう一度日本に戻るから。その時に、お互いの気持ちを確認しようって」
「確認て……」
「待っていて欲しくない。だけど、もしもまだ、お互い相手のことが好きなら、一番初めに逢った桜の木の下で逢おうって。それが明日なんだ」
「明日って」
思わず私の方が、動揺して慌ててしまった。
「実は、迷ってるんだ」
望月さんは、小さく息をつく。
「時々、自分の気持ちが解らなくなるんだよ。彼女の事は、ずっと好きだったはずなんだ。だからこの町に居座って、桜の木がそばにあるこのマンションに住もうって決めた。だけど、川原さんに逢って、わからなくなってきたんだ」
「私……ですか?」
「川原さんて、結構無自覚だよね。いや、川原さんが悪いわけじゃないよ。ゆかいな仲間君もいるしね」
「え? ゆかいな仲間って、櫂君?」
何故櫂君の名前がここに登場するのかわからずに、私はきょとんとしてしまう。
そんな私の顔に向かって、にこりと頷く望月さん。
謎の頷きに更に首を傾げそうになってしまう。