桜まち
「色々迷走した結果。昨日ではっきりした」
昨日、といわれて思わずどきりとする。
昨日といえば、キスのことしかないよね。
あのキスで、いったい何がはっきりしたんだろう。
「それに、今こうして川原さんに話したことで、気持ちの整理ができたよ」
よく解らないけれど、確かに望月さんは、話し始めた時とははっきりと違う、すっきりとした顔をしている。
「頭冷やして考えてこようと思って出てきたんだけど、その前に答が出たのは、川原さんのおかげだな。ありがと」
「え、いえ。私は何も」
そう、私は何もしていない。
ただ話を聞いていただけだ。
よく解らないまま二人で三階へ行き、お互いのドアの前に立つ。
「お休み、川原さん」
「お休みなさい」
小さく会釈すると、望月さんが付け足すように口を開く。
「いつでもそばにあると、大切さって気がつかないものだよね」
「え?」
「それと、昨日のは二人だけの秘密にしておこう」
「それって……」
キスのこと?
戸惑いながらいる私に笑顔を向けると、望月さんは部屋の中へと入っていってしまった。
いつもそばにある大切さ……。
望月さんの言葉が、なんとなく胸の奥にあったモヤモヤを消し去って行くような気がした。