桜まち
櫂君の姿を上から下まで眺めて思う。
なんか、いいじゃん。
佐々木さんじゃないけれど、惚れるのもわかるよね。
櫂君て、今更だけれど、やっぱりかっこいいのね。
通り過ぎて行く女性たちが、さっきからちらちらと櫂君を見ていく。
注目を浴びるほどなんだから、よっぽどだよね。
「あ……、あのぉ。僕の恰好、おかしいですか?」
ガン見していたら、櫂君が不安そうな顔をしていた。
「あ、違うの。ごめん、ごめん。なんかね。今更だけど、櫂君て、かっこいいんだなって思って」
「あ、見惚れてたんですね」
「へ? み、見惚れるって……」
「いいですよ。遠慮しないで、どんどん見惚れてくださいね」
櫂君てば。
私が見惚れるなんて、何を言ってるんでしょう。
望月さんじゃなくて、櫂君に見惚れるとか、それ笑い話ですよ。
確かに櫂君はかっこいいかもしれないけれど、私が好きなのは望月さんですから。
とは言うものの、桜にまつわる彼女のことやキスのことも気にかかっていて、いまいち胸を張って望月さんのことが好きーーー! と叫ぶような感じではなくなっていた。
好きとか愛しているとかいう次元じゃなくて、なんていうのかな……こういうの。
あ、そうだ。
憧れだ。
スラリと高い身長に爽やかな笑顔。
その時にのぞく、まるでCMのような白い歯。
後光さえ見える眩しい容姿を持つ望月さんに、私は憧れを抱いていたんだ。
だからなのかな。
あの時のキスに、何故だかひどく落ち着かない気持ちになってしまったのは。
憧れの人は、遠くから見つめて、あーだこーだ勝手なことを言って、きゃっきゃと騒ぐからいいのであって。
近づきすぎちゃいけないんだと思う。
その点櫂君は、とっても身近な存在だよね。
新しいコートをかっこよく着こなす姿は、望月さんにも負けていない気がする。
違うのは、憧れじゃないって事。
そう、櫂君は、憧れじゃなくて、もっと、こう――――。