桜まち
そうやって並ぶこと、一時間。
寒さにもやられ、足も痛くなってきた頃、ようやくお賽銭箱の前までやってくることができた。
ほいっと小銭を投げ入れ、拍手を打ってお願い事をする。
私の願いは、母が亡くなってから毎年決まっている。
お祖母ちゃんがいつまでも元気でいてくれますように。
これだけが、一番の望みだ。
隣に並ぶ櫂君も、なにやら真剣に目を瞑ってお願い事をしている様子。
「櫂君は、何をお願いしたの?」
「えっ!? いや、僕は、そのっ」
訊ねる私に何を慌てているのか、櫂君がしどろもどろになっている。
「いいよ。無理に言わなくても。お願い事は、口にしちゃいけないような気もするし」
その後二人でおみくじを買ったら、ダブルで大吉だった。
こんなことってあるのかなー。
私は、かなり猜疑心の固まりになって、神社がみんなにいい思いをしてもらいたくて気を利かせたんじゃないかと話すと、それはそれでみんなが幸せな気持ちになるから、いいんじゃないですか。と櫂君が穏やかに微笑んだ。
それもそうだね。
その後、小腹の空いた私たちは、定番になってきているラーメン屋さんへと赴き、熱々のラーメンで心も体も温めた。
替え玉をする櫂君を見守ったあと店を出て、自宅マンションへ足を向ける。
「そういえば、櫂君のマンションの件。ずっと保留になったままだったよね。お祖母ちゃんが、駅から少し離れた場所だけど、一件あるみたいなこと言ってたよ。どうする?」
「あー。それなんですけど。せっかくで申し訳ないんですが、お断りしてください」
「いいの?」
「はい」
櫂君は、すっきりとした表情で冬の透き通るような青を見上げて呟いた。
満足そうなその顔を見たら、何も無理に新しい部屋を勧める必要はないのかなって思った。