桜まち
「今日は、ありがとう」
エントランスの中まで送ってくれた櫂君へぺこりと頭を下げると、どういたしまして。と笑顔が返される。
櫂君て、やっぱりいつも笑顔だよね。
さっきもそうだけれど。
私の知っている櫂君は、いつだって笑っている。
私の前では、いつも笑顔でいてくれている。
そんな櫂君を見ていると、安心するんだよね。
なんていうか、近くにいる人が笑っているって、凄くいいことだと思うんだ。
そばで悲しい顔や怒った顔ばかりされていたら、そういうのって伝染してくるし。
自分が悲しくもないのに、なんだかぎゅっと締め付けられるような気持ちになったり。
誰にも怒りなんて覚えていないのに、何故か心がトゲトゲしてきたり。
そういうのって、心に良くない。
だけど、櫂君はいつも私の前では笑っていてくれる。
その笑顔は私に伝染して、自然とウキウキしたりルンルンしたり、心が弾んでいく。
そういう気持ちにさせてくれる櫂君の存在は、私にとって、とても貴重だって、改めて思うんだ。
そう考えたら、とても言いたくなってきた。
「櫂君。ありがとう」
「どうしたんですか、急に」
突然のように感謝の気持ちを告げられて、櫂君はきょとんとした顔をしている。
そんな櫂君へ、私は笑顔を向ける。
「すっごく言いたくなったから」
「じゃあ。遠慮なく、その気持ち受け取ります」
「櫂君。今年も宜しくね」
じゃあ、また。と手を上げる櫂君へ声高に伝えると、こちらこそー。と手を振り帰って行った。