桜まち
自分と向き合う
―――― 自分と向き合う ――――
身を縮めてばかりの寒い寒い一月二月が過ぎ。
ようやく桜咲く三月がやってきた。
商店街の並木道に咲く桜も蕾を膨らませ。
このマンションの桜も、蕾をつけている。
渡り廊下で春風に吹かれながら、その桜の蕾を眺めている時、ふと後ろが気になり振り返った。
そこには、望月さんの部屋がある。
望月さんとは、もう随分と逢っていなかった。
留守にしているような感じはないようだけれど、なんだか忙しいようで、この部屋にいる時間は短いようだった。
あ、ストーカー復活とか思わないでね。
生活音みたいなので、少し判っちゃったりするんだからね。
元気にしてるのかなぁ?
「この桜が咲くのを、楽しみにしていたのにな」
小さく呟きを漏らすと少し寂しさを感じた。
思い入れの話を望月さんが初めて口にした時、私は次に咲くこの桜の木を一緒に見られる気でいた。
一緒に綺麗だなって言い合える気がしていたんだ。
それは、私の勝手な願望だったのだけれど。
桜の木をもう一度眺め、せり出した枝につく蕾にやさしく触れる。
「大きくなってきたね。今年も綺麗な花を宜しくね」
「川原さん」
桜に話しかける危ない私に、久しぶりの声が聞こえてきた。
「望月さん」
驚いて目を丸くしていると、彼はエレベーターの方からにこやかに近づいてきた。