桜まち
寂しさに私の口数が減ってしまうと、引っ掻き回して悪かったな。
なんて謝ってきた。
「引っ掻き回すって……。私は、何も。ただ、寂しくなるなって思って」
「ありがと。ホント、川原さんは、俺にとって惜しい存在だよ」
惜しい?
惜しいって、どういう意味だろう。
「彼女にね、逢うことができたんだ」
「え? 彼女って、あの桜の?」
私の問いかけに、一つ頷く。
「あいつ向こうで色々あって、本当はもうずっと前から日本に戻っていたみたいでさ。だけど、それを俺に言えなくて。五年後なんて言いながら、度々約束の場所に来ていたって。もしかしたら、五年経たなくても、俺が来てくれるんじゃないかって期待していたのに、結局きっちり五年後に来るなんて、律儀すぎるって言われたよ。けどさ、自分で待たなくていいって言ったのに、勝手だよな」
望月さんは、クスクスと可笑しそうに、けれどとても嬉しそうに笑っている。
それは、とても幸せそうな笑顔だった。
「良かったですね」
私は、心からそう思った。
だって、それほど長い付き合いじゃないけれど、こんな素敵な笑顔の望月さんを、私は見たことがない。
望月さんをこんな幸せな表情にできる桜の彼女は、きっととても素敵な人なんだと思う。
「それで。結婚することになった」
「へぇ~。結婚ですか。……えっ! 結婚!?」
話が飛躍しすぎて、思わず声を上げてしまった。
「うん。だから、ここから越すことにしたんだ」
そうか。
いくらここの造りが広いからとはいえ、二人で住む新居には手狭だよね。
「おめでとうございます」
「ありがとう。これも、全部川原さんのおかげかな」
「私ですか?」
自分を指差し驚いていると、穏やかな視線を向けられた。