桜まち
私が三階に戻ると、さっきまでふくれっ面だった櫂君の表情が一変していた。
なんだかやけにニコニコとしていて、望月さんとわきあいあいなのだ。
ん?
なんでだ?
「あ、菜穂子さん。ダンボールすみませんでした」
「ううん。別にいいんだけど、なんか、機嫌よくなった?」
「え? そうですか? さっきと変わらないと思いますけど」
いやいや、櫂君。
君、あきらかにさっきとは違いますって。
何で僕がなんていっていたのに、今じゃほいほいダンボール運びまくってるし、望月さんの話はNGだったくらいなのに、メチャクチャ仲良しさんではないですか。
櫂君と望月さんが、なにやらニコニコと顔を見合わせて笑いあっているのだけれど、二人はその理由を私へ教えてはくれない。
私が下に降りている間に、二人の間でいったい何が起きたんでしょう。
わけがわからないけれど、お別れのときに笑顔でさよならできるのは、よかったよかったですよ。
「短い間だったけど、世話になったね」
沢山のダンボールや荷物を全て詰め込んだトラックのそばで、望月さんが名残惜しそうに挨拶をする。
「いえいえ。私こそ、色々とご迷惑をおかけしました」
ぺこりと頭を下げると、笑われた。
この笑いは、ご迷惑=ストーカー騒ぎに繋がったんだろうと思う。
まー、仕方ないか。
最初の頃を思い出し、私も苦笑い。
「お元気で」
「川原さんもね」
望月さんを乗せて去り行くトラックを、櫂君と二人で手を振り見送った。
私の一目惚れ様、さようなら~。