桜まち
「寂しくなるなぁ」
私の呟きに櫂君が、そうですね。なんて相槌を打つ。
やっぱり、私がダンボールを運んでいる間に、二人の間では何かあったに違いない。
だって、以前の櫂君ならきっとこういったはず。
「寂しくなんかないですよ。僕がいるじゃないですか」と。
考えてみれば、わかりそうなものなんだ。
こんな言葉、どう考えたってそうとしかありえない。
だけど、近くにいすぎて、それが当たり前になりすぎて、気づくのが遅くなっちゃった。
ううん。
違うかな。
望月さんが言うように、自覚症状が表面化していないだけで、実はわかっていたのかも。
だから、クリスマス会のときもスカートヒラヒラの佐々木さんのときも、胸の中が落ち着きをなくしていたんだ。
佐藤君にまで言われちゃったしね。
彼に言われたように、ちゃんと自分で考えましたよ。
おかげでよーく解りました。
それに、夏になったらキャンプへ行きましょうって言ってくれたこと、本当はすごく嬉しかったんだよね。
夏になるのが、とても待ち遠しいくらいなんだ。
けど、そういう気持ちを自覚すると、なんだかものすっごく恥ずかしい。
「菜穂子さん?」
「ひゃっ!」
ぼんやり考え込んでいると、櫂君の顔が直ぐ近くにあって、思わず飛びのいてしまった。
「なんか、その態度。結構、傷つくんですけど」
櫂君が拗ねてしまう。
「あ、ごめん。ちがうの、あの。その」
しどろもどろになって、まともに櫂君の顔が見られなくなってしまった。
「まー、いいです。僕、今未来がすっごく明るいんで。心が大きくなってますから」
未来?
はて? と首をかしげていると、櫂君が呟いた。
「いい桜日和ですね」
優しい顔で桜を眺めて呟く櫂君の隣に並び、私は頷きを返した。