桜まち
「おーい。櫂くーん」
駅前で待っていた櫂君のそばに走り寄ると、普段着姿の櫂君が手を振って迎えてくれた。
ジーンズ姿にTシャツというラフなスタイルの櫂君は、なんだか大学生みたいだった。
そのままどっかの大学にもぐりこんでも、まだまだいけそうな感じがする。
「菜穂子さん。スカート似合いますね」
デニムのスカートを見て、櫂君がお世辞を言ってくれる。
休日でも気遣いに余念がないのが素晴らしい。
「いやいや。櫂君こそ。なんか、若いよね」
「若いって。三つしか違わないじゃないですか」
「三つ違ったら充分でしょうよ。女と男じゃ、同じ年をとっても違うからね」
「そんなもんですか?」
「そんなものなのですよ、櫂君」
余り納得していない櫂君は、この町の事をよく知りたいというので大雑把に案内する。
小さなお店が寄り集まっているおかげで、意外と重宝することや。
知り合いが多いから、私と一緒ならサービスしてもらえるよ。なんてことまで。
「この、道路脇の木って、桜ですか?」
櫂君がふと足を止めて、色の変わってしまった葉のついた木を見上げた。
「そうそう。商店街から大通りに出るまで、ずっと続いてるんだよ。春は凄く綺麗なんだ」
「想像できますね。益々、引っ越してきたくなりましたよ」
櫂君は、キラキラした目をして話す。
なんだか、秘密基地でも発見した小学生のようだ。
ワクワクと未来に希望を見ている少年の目が、続く桜の木を眺めている。