桜まち
アツヒロ
―――― アツヒロ ――――
朝、私は狙いすました時間の狙いすました車両に乗っていた。
そして、真隣には、愛しの彼がスマホを片手に立っている。
まさに狙い通り。
ヤバイ、ドキドキする。
ちょーかっこいい。
男前過ぎるんですけど。
チラチラ気にして見ていると、向こうもなんだか気がついたみたいでこっちに視線を向けた。
慌てて私は視線を逸らす。
不自然だったかな……。
不安になって少ししてから隣をそおっと窺い見ると、彼は又スマホに視線を戻していた。
名前、なんていうんだろう?
LINE交換したいなぁ。
ふるふるしませんか? なんて話しかけたら、引かれるよね。
ドン引きですよ。という櫂君の声が聞こえてくるようだ。
しかし私は、たった今決心した。
今日は、遅刻してでも彼のことを知りたい。
櫂君がドン引きしようが、有休を使ってでもこの愛の行方を追うのだ。
そんなわけで。
いつもは次の駅で降りるのだけれど、私は降りずに彼の行方を追うことにした。
櫂君には、一応LINEで連絡を入れておく。
【 出社が遅れるけど、適当に誤魔化しておいて 】
メッセージを送るだけ送って、櫂君の返事は見ない。
見たら最後、良心の呵責に耐えられなくなりそうだから。
これでも一応、責任感の“せ”の字くらいは持っているのだよ。