桜まち
一目惚れ
―――― 一目惚れ ――――
「いい男だったんだけどなぁ」
「なんですか。それ」
自席の椅子をギシギシ言わせながら定型業務を適当に仕上げていると、隣の席から呆れた声がした。
それほど広くもないフロアは、私の身長ほどのパーテーションで簡単に区切られている。
営業に経理に総務に広報。
他色々。
その中でも何でも屋的なうちの部署。
総務第二課と、なんとも真面目な名前がついているけれど、やっている仕事は雑用や他の部署のやらかしちまいました的な後始末ばかり。
ようするに、クレーム処理ね。
胃が痛いっつーの。
そんな雑用を隣の席に座る私の後輩の藤本櫂君は、今日も真面目にコツコツこなしているわけです。
よっ。
会社の鏡!
「だから。落し物の定期を拾ってあげてね」
私は、朝のできごとを再度口にする。
「それは聞きましたよ。あ。まさか、一目惚れ、とか言わないでくださいよ」
櫂君が、勘弁してくださいよ、という顔を私に向ける。
何を勘弁して欲しいのかはわからないけれど、どうにもそんな顔にしか見えないのだ。
そんな櫂君が言った、まるで学生みたいな一言がひっかかる。