桜まち
ストーカー?
―――― ストーカー? ――――
「完璧に怪しい女ですよ」
送れて出社した私の話を聞いて、櫂君は無碍もなく言い切った。
「だいたい。それって、ストーカーですよ」
「えっ! ストーカー? この私が?」
余りに驚いて訊き返すと、大きく頷かれた。
それはマズイ。
ストーカーなんて、れっきとした犯罪行為じゃないのよ。
訴えられたら、捕まっちゃうよ。
永久に彼に近寄るな、的な約束させられちゃうじゃん。
「それは、困るっ!!」
「いえいえ。困っているのは、多分訝しそうにして菜穂子さんのことを見ていた彼の方ではないかと……。きっと、恐がっていますよ」
「恐がる? 私を?」
「はい」
そうか、私は彼に恐怖を与えてしまったんだ。
愛を与えるつもりが、とんだ誤算だ。
「わざわざ有休使ってまで追っかけるのとか、もうやめたほうがいいですよ」
櫂君は、呆れた溜息を零している。
その目がなんとなく私のことを可哀相な奴、的に見ている気がするんだけれど、気のせいだろうか。
「けどねぇ。こうでもしないと、彼の事知りようがないんだもん」
「別に知らなくってもいいじゃないですか。それか、やり方変えてください」
「どういう風に?」
「ちゃんと話しかけて、自分の気持ちを告白するとか」
「それで撃沈したらどうするのよ」
「それはもう仕方ないことなので、諦めてください」
「簡単に言わないでよぉ」
「それとも、警察のお世話になりたいですか?」
櫂君に脅されて、私は渋々ながらもコソコソと嗅ぎまわるのはやめることにした。