桜まち 
親子




  ―――― 親子 ――――




お隣に人が入らないまま、数日が過ぎていた。

そんな折、私は休日を利用して、お祖母ちゃんの家に遊びに来ていた。
というか、夕食を肖りに来ていた。

「ねぇ、お祖母ちゃん。うちの隣って、いつ入るの?」

お祖母ちゃんの家でテーブルを囲み、私はパクリと煮物を口にする。
いつもながらに、よく味の沁みた大根だ。

お祖母ちゃんの作った煮物は相変わらず美味しくて、いつも作り方を教えてもらおうと思っているのだけれど、つい忘れてしまう。
帰りにでも訊いてみよう。

「隣? ああ、菜穂子のいるマンションかい。確かー、来週末じゃなかったかねぇ?」

なんとものんきな大家のお祖母ちゃんだ。
お金に困っていないせいか、年の功か。
いつだってのんびり余裕綽々なんだよね。
私も、こんな年のとり方をしたいものだわ。

食事が済むと直ぐ、お祖母ちゃんは自分で淹れた緑茶をすすりながら、針仕事を始めた。

「何作ってるの?」
「鈴木さんところのお嬢さんがな、もう直ぐ出産だというから、お包みをな」

そういって針の先を頭にクイクイと刷り込ませている。
見た感じ、頭に針を突き刺しているようにしか見えなくて、とても痛そうだ。

昔、何で頭に針を刺すの? なんて子供ながらに痛いだろうと訊いたことがあった。
すると、それは刺しているんじゃなくて、針の滑りをよくするために、頭の油を針先につけているんだと教えてくれたことがあった。
昔の人の知恵だよね。
へぇ~。なんて感心したのを憶えている。


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