桜まち
前回と同じようにうすーくドアを開けて外の様子を伺ってみれば、引越し業者の人が出たり入ったり。
どうやら、とうとうお隣さんが越してきたようだ。
昨日のお祖母ちゃんの話しでは、来週末ではなかったか?
なんともいい加減な情報元だわ。
櫂君、キャンセル待ちは無理だったよ。
忙しなく荷物を運ぶ業者さんを見ながら、残念がる櫂君の表情を思い浮かべて、ランチでもおごってあげようかな、なんて愁傷なことを思ってみる。
いつまで覗いていても仕方ないし。
覗き見しているお隣さんなんて、気持ち悪がられても困るので、早々に首を引っ込めて洗面所へ向かい、歯を磨きながら、どんな人が越してきたんだろう、と勝手に想像を膨らませる。
私と同じOLさんかな?
でも、お祖母ちゃんの話だと家賃は高いらしいから、普通のOLさんじゃあ無理か。
じゃあ、稼ぎのいいサラリーマン?
となると、結構年配?
おっさんで一人暮らしって、う~ん。
あ、でも。
若くても、出世している人もいるしね。
うんうん。
それとも、新婚さん?
二人で暮らすには、ちょっと手狭な気もするけれど。
狭いほうが親密度もアップ?
むふふ。
勝手にえっちい妄想を繰り広げていると、ご苦労様でしたー。というわりと若い男性の声が聞こえて来た。
おっと。
若い男の声ではないですか。
男前かしら?
思わず、ワクワクしてしまう。
想像通りの男前が万が一にもお隣さんだった場合には、こんな起きたての貧相な素顔で挨拶なんてことになっても困るので、即効で化粧を施し一番のお気に入り服に着替えてみた。
櫂君、私にも春が来るかもしれないよ。
ひゃひゃひゃ。
偶然のように外へ出て、何気なーくお隣さんのドアの前を通り過ぎてみたのだけれど、住民は既に部屋の中に引っ込んでしまったようで見当たらない。
ちっ。
タイミングを謝ったわ。
仕方なく、ちょっと下まで降りて、お祖母ちゃんのコンビニに行ってから戻ることにした。