桜まち
店中に入ると、もう随分とここのバイトを長く続けてくれている、大学生の翔君がシフトで入っていた。
「あ、菜穂子さん。こんちはー」
「こんにちは、翔君」
「売上協力ですか?」
「うん。何か珍しい商品、入荷してない?」
「ああ。カップ麺ならありますよ」
一人暮らしにカップ麺とは、まさにまさじゃないですか。
こういうの買っちゃうと、本当に何にも作らなくなっちゃうんだよねぇ。
とかいい訳してみても、作るのは面倒なので、買っちゃうのだ。
「じゃあ、それと。ビールとーお菓子」
「相変わらず、ジャンキーですね」
「一人暮らしなんてそんなもんでしょ」
「そんことないですって。ちゃんと自炊している女性もいますって」
「女に夢をもっちゃーいけないよ」
「俺の夢を粉々にしないでくださいよ」
レジ打ちしながら情けなく笑っている翔君は、大学二年生。
一年生の頃からからずっとここのバイトをしているから、もう一年以上経つベテランさんだ。
色々と気の利くいい子なんだけど、なかなか彼女ができなくて、女の人に多大なる夢を抱いているんだよね。
「女に期待しちゃいかんのよぉ~」
ヒラヒラと翔君に手を振り店を出て、今度こそお隣さんを確認したいとウキウキしながらマンションへ戻った。