桜まち
泣きそうになりながら訴えかけているそこへ、丁度お祖母ちゃんが現れた。
「あれあれ。何の騒ぎだい」
のんきに言いながら、お祖母ちゃんがやってくる。
「あら、こんにちは。三〇四に越してきたー、望月篤紘さんですか? 大家の川原です」
「あ、どうも。お世話になります」
フルネームは、モチヅキアツヒロっていうんだ。
こんな時だというのに、恋心は冷静だ。
「うちの菜穂子が、何かご迷惑をおかけしているようで、申し訳ございませんねぇ」
「あ、いえ。そんな、別に」
大家を目の前にして、さすがに孫をストーカー呼ばわりはできないらしい。
「何かありましたら、少し先に住んでおりますのでご連絡くださいね」
お祖母ちゃんは、深々と頭を下げると、有無も言わさず私の手を引いてエレベーターへ向かう。
ドアが閉まるまで、モチヅキアツヒロさんは、私たちのことを見ていたけれど。
お祖母ちゃんは、にこやかな笑顔を崩さずにエレベーターの中からお辞儀をしていた。
「まったく、菜穂子は。一体、何をやっているんだい。ストーカーなんて」
そうして私は、エレベーターのドアが閉まりきるなり叱られた。
「違うよ、お祖母ちゃん。ストーカーなんてそんな大それたこと、ちょっとだけだよ」
縋るように言うと、ちょっとだけってなんだいっ。とお尻をペチンとひっぱたかれる。
昔から、私が悪さをすると、お祖母ちゃんはこうやってお尻を引っぱたいていた。
なんだか久しぶりだ。
感慨に浸りつつも、私は彼に出会った経緯や何かをお祖母ちゃんに説明した。