桜まち
「とにかく。菜穂子さんのお祖母さんが言うとおり、余計な行動は起こさないほうがいいですよ。菜穂子さんが引っ越すだけで済むならまだいいでけど、訴えられでもしたら大変ですからね」
櫂君にまで釘を刺され、ウキウキしていた気持ちが少しずつ萎んでいく。
「櫂君なら、一緒に喜んでくれると思ったのにな……」
寂しげに漏らすと、櫂君がちょっと慌てだす。
「あ、いや。別に菜穂子さんを落ち込ませたいわけじゃないですよ。ただ、僕は心配しているだけなんです」
「うん。わかってるよ、櫂君。ありがとね」
私が常に軽率だから、気を引き締めようとしてくれているんだよね。
うん、うん。
気をつけるよ。
多分。
櫂君の忠告を胸に、私はつつましく生活することを決意する。
わざわざ彼が玄関を出る時間を見計らって同じように出て行くとか。
彼の帰ってくる時間、耳を欹てて確認するだとか。
彼の部屋番号のポストをチラ見するだとか。
けして、そんな事はしないように努力します。
多分。