桜まち
知りたいんだもん
―――― 知りたいんだもん ――――
自分からお願いした手前、食べ物も飲み物も私が用意した。
「気前いいでしょ?」
ニコニコと櫂君へいうと、当然でしょう。という顔を向けられる。
そんな櫂君の手には、お祖母ちゃんのコンビニで買った惣菜やつまみやアルコールの入ったビニール袋が握られていた。
重そうなそれらを軽々と持つ櫂君とともに、私は自宅マンション内に入る。
エレベータで三階に行き、渡り廊下を歩いていくと、私の部屋の隣で櫂君がピタリと足を止めた。
「櫂君?」
自分が入りたかった部屋の前で、後悔の念にでもかられているのでしょうか。
櫂君は、お隣さんのドアの前でじっと何やら観察中。
「ここですか。望月っていうんですね」
言われて、表札が出ていることに初めて気がついた。
「モチヅキって、この望月さんなんだ。へぇ~」
「他にどんなモチヅキさんがあるんですか?」
櫂君の突っ込みは、スルーして。
あとは、アツヒロってどんな漢字で書くのかが解れば完璧よね。
なんて、むふむふ考えていると、櫂君がじっと私のことを見ていた。
あれれ?
なんか、私の考えが丸見え?
「大丈夫。変な事は考えてません」
とは言ったものの、櫂君にはばれていると思うけれど。
本当ですか? という櫂君の猜疑心丸出しの顔つきをスルーしたのは言うまでもない。