桜まち
櫂君は、この会社に入ってまだ一年半の新人君だ。
なのに、とっても要領がよくて賢くて、私はいつも彼に助けられている。
心強いというか、自分のふがいなさに情けないというか。
「ああ、菜穂子さん。ここの数字、間違ってますよ。やり直してください」
「はーい」
「返事は伸ばさないでください」
「はい。了解しました」
まったく、どっちが先輩だかわかったもんじゃないのである。
「川原ー」
櫂君に指摘された数字を入力しなおしていると、部長からのお呼びがかかった。
また、あれか。
部長は、椅子に座ったままで私に一言告げる。
「会議室いってくれ」
やっぱり……。
数字には弱い私だけれど、PCの入力だけはやたらと速い。
おかげで、会議のたびに会議議事録を頼まれていた。
まさに何でも屋だ。
使えないと思われるよりはいいけれど、会議って、本当につまらないのよね。
ノートパソコンを片手に、いってきます。と櫂君へ言って席を立つと、頑張ってくださいねー。なんてヒラヒラ手を振りお見送りをしてくれた。
そうして約二時間後、同じスタイルで私は席に戻るのだ。