桜まち 


「けどさ、櫂君。好きな人のことって、何でも知りたいじゃない? 櫂君だって、好きな人のことは少しでも知りたいって思うでしょ?」
「そりゃあ、まあ……」

不満そうではあるけれど、知りたいという心理については完全否定をしない。

「そういえば。櫂君て好きな人いるんだよね? この前どんな人か訊き忘れたし、せっかくだから今日教えてよ」
「せっかくの意味が解りません」

「せっかくは、せっかくよ」

強引に言い切ると、苦笑いを浮かべている。

だって、ただ静かにお惣菜にかぶりついてビールを飲んでいてもつまらないじゃない。
惣菜以外にも、お酒には肴が必要なんですよ。

興味津々で櫂君が話し始めるのを待っていると、遠慮がちに口を開いた。

「片想いなんで、あんまり言いたくないです」
「ええー。櫂君なのに、片想いなの?」

私は、酷く驚いた。

「ええーっと、それどういう意味ですか?」

だって、あれだけ会社でも注目の的で、藤本くぅ~んなんて甘い声で呼ばれちゃってる人が、まさかの片想いなんて、普通は驚くでしょう。

「櫂君て、もてるでしょ? 私、女の子たちがよく櫂君の噂してるの聞くよ」
「なんですか、噂って」

「かっこいいのに彼女がいないのは何故だ、的な」
「かっこいいは嬉しいですけど、大きなお世話です」

大きなお世話ですか。
そりゃ、失礼しました。


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