桜まち
あっ。
「まさか、櫂君……」
私は右手を反り気味にぴんと張り、その甲を左頬につけぽそりと呟いた。
「こっち系?」
言った瞬間に、櫂君は飲んでいたピールをブッと思い切り噴出した。
「あーあー」
噴出して汚れてしまったテーブルを、私は近くにあったティッシュで拭き拭き。
もったいないじゃないのよぉ。
「ご、ごめんなさいっ」
櫂君も慌てて拭いている。
「いーの、いーの。謝ったりしないで。どおりでねぇ。そりゃあ好きな人のことなんて、そうやすやすと口にはできないよね。こっちこそ無理に訊き出そうとして、ごめんねぇ。人の想いなんてそれぞれだから、男が男を好きになったっていいのよ。しゃんと胸張ってね」
「ちっ、違いますよ。謝ったのはそのことじゃないですって。ビールを零した事です。大体、誰がそっち系なんですか。僕はちゃんと女の子が好きなんですよ」
「あ、そうなの? それは、失礼しました」
まったくもう。と櫂君は頬を膨らませたあと、グイッとビールを煽っている。
けど、片想いなんて、櫂君の容姿からはやっぱりイメージが結びつかないよ。
私が片想いしているというなら、きっと周囲は二度三度と大きく頷きを返すだろうけれど、モテモテで選び放題なはずの櫂君がねぇ。
けど、櫂君がもし告白したら、その片想いの相手はすんなりオーケーするかもしれないよね。
だって、櫂君だよ。
こんなイケてる男の子からの告白を、断る女の子なんていないでしょう。
あ、それとも禁断の恋?
相手は人妻とか?
ひょお~。
やるねぇ、櫂君。
なんやかんやいっても、恋愛というのは難しいものだね。