桜まち
「はい。これ」
お店から出てきた櫂君に、お会計の半額を渡そうと私は数枚のお札を差し出した。
「いいですよ。今日は、僕のおごりって言ったじゃないですか。それに、前に僕おごってもらってるし」
「けどね」
お店のレベルが高いよ、櫂君。
私がお祖母ちゃんのコンビニで惣菜やビールをおごったのとは差がありすぎだよ。
「気にしないでくださいよ」
櫂君は、アルコールでご機嫌なのかヒラヒラと手を振ると、タクシー拾いますね。と大通りに行って手を伸ばす。
これは、お祖母ちゃんに裏の手を回してもらってでも、櫂君の住処を確保しなくちゃいけないな。
はっ。
もしかして、櫂君。
はなからそれが目的だったとか!?
私としたことが、迂闊だった。
賄賂ってやつじゃないですか。
まんまと櫂君の罠にはまってしまったわ。
これは、相当いい物件を紹介しなくちゃいけないじゃないの。
早速お祖母ちゃんに、いい物件がないか再度訊いてみなくちゃだわ。
乗り込んだタクシー内で、櫂君はご機嫌だった。
食事の時みたいに饒舌にぺらぺらとおしゃべりをしていたわけじゃないけれど、にこやかな表情をずっと保ったまま、時より隣に座る私のことを窺うようにしてみていた。
「櫂君。ご機嫌だね」
私がそう話しかけると、はい。とっても。といって笑う。
なんか、あんまりご機嫌な表情でそばに居られると、望月さんに避けられてどんよりしていたことも忘れてしまいそうだよ。
櫂君の笑顔のパワーかな。
そんな櫂君は、私を先に家まで送ってくれた。
これまた気が利くこと。