桜まち 


「本当に違うので、そんなに怖がらないでくださいよ」

私は、二、三歩離れたところから、懇願するように望月さんへ訴えかけた。

少し離れて話しかけたのは、余り近づくとこの状況では更なる誤解を生みそうだからだ。
望月さんはといえば、うまく鍵が開けられず、恐々と弁明している私を振り返る。

「そんな目で見ないでください」
「普通、見るだろ」

恐がりながらも、半ば切れたように言い返されてしまった。

「危害を加えるような事は、絶対にいたしません。誓いますっ。ただ、本当に私は、純粋にあなた様に一目惚れをしただけでして」
「それがストーカーだろっ。あんた、マジこえーし。大家の孫かなんかしらねえけど、これ以上俺に関るなっ」

切れ気味のまま言い切られて、もう何を言っても無駄なんだなぁ。と私はなんだかとっても悲しくなってしまった。

肩を落として俯くと、お前の相手なんかしてられないとばかりに、望月さんは私の横をサッと通り過ぎていなくなってしまいました。

ああ、悲しい。
ああ、せつない。
ああ、惨め。

櫂君の言うとおり、会社までつけて行ったりしなきゃよかった。
そしたら、ここまで酷いことを言われたりしなかったかもしれない。
ただ、電車で見つめているだけなら、まだ相手への印象は悪くならなかったのかも。

こんなに近い距離に住んでいるのに、心は遥か宇宙の彼方以上に遠いよ。

叶いそうもないこの恋に、私はシミジミ思うのでした。

神様は、なんて罪な距離に私と彼をおいたのですか。

それでも、“ストーカー女”と呼ばれるのだけは、撤回して欲しいな。
せめて、川原と呼んでいただきたい。

また逢う機会があるなら、の話だけれど。

ふぅ~。


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