桜まち
元気付けたはずの私が落ち込んでいるのを見て、何かあったんですか? と櫂君が親身に訊いてくれるので昨日のことを話してみた。
「うーん。なんと言えばいいのでしょう」
困った顔をして、櫂君が腕を組む。
「もう、なんとでも言って。私は所詮ストーカー女なので」
だって、好きな人にあんな冷たい目で見られて、はっきりとストーカーなんて言われちゃったら、もう立ち直れませんよ。
机に頭だけぺったりと乗せてだらりと手を下げていると、元気出してください。と背中をとんとんされる。
優しい櫂君の手に、じんわりしてきて目元が揺らいでいった。
今にもこぼれだしそうな涙の奥では、昨日の怒った望月さんの顔が浮かぶ。
思い出しただけで、悲しさ倍増だ。
だけど、思うんだ。
会社で泣くなんて、新入社員でもあるまいし。
後輩に甘えてばかりじゃ駄目だよね。
自制心を無理やり働かせて、私はぐっと目元を拭い、パッと上半身を起こす。
「仕事するっ」
余計なことを考えていても仕方がないので、今はとにかく仕事だけに目を向けよう。
落ち込むのは、帰ってから一人でやればいい。
私は気持ちを切り替えて、書類に手を伸ばす。
すると、タイミングよく部長から声がかかった。
私の専売特許、議事録だ。
ノートパソコン片手に出て行く私を、櫂君が可哀相なやつを見るような目で見送ってくれた。