桜まち
商店街では、小さなお店が犇めき合っている。
中二階になっているお店もあって、身軽な一人者なら難なく上り下りして商品を見ることができるけれど、老人や小さい子を連れた家族連れは大変だろうな、といつも思っていた。
レンタルショップの前を通り過ぎ、帰りにDVDでも暇つぶしに借りていこうと、とりあえず鳴り続けるお腹を黙らせるために昔からある洋食屋さんに入った。
「こんにちはー」
「あら、菜穂ちゃん。いらっしゃい。奥どうぞ」
小さい頃から通っていたお店だから、フロアに立つおばちゃんのこともよく知る一人だった。
「いつものでいいの?」
「うん。お願い」
指定席というわけじゃないけれど、奥の通りが見渡せる席が私のお気に入りだった。
通りでは、家族連れや子供たちがたくさん行きかっている。
そんな中、時々通る恋人たちを見ると、ぎゅっと心が辛くなった。
あんな風に、望月さんと私もなれたら良かったのにな。
もう叶わない未来をぼんやりと想像して、切なさにまたきゅっとなった。
向かい側にある三階建ての小さなビルには、安い食料品店が入っていて今日も盛況のようだ。
端っこにある細い階段を行き来するのがちょっと大変だけれど、品物が本当に安いのでいつも繁盛している。
人の出入りの激しいそのお店をぼんやりと眺めていたら、階段のところでで不意に目が止まった。
あ、なんかあれ、危ないかも。
その階段付近で、危なっかしい雰囲気がして席を立った。
「おばちゃん、すぐ戻るからっ」
レジに居たおばちゃんに声をかけて、私は店を飛び出した。
通りを歩く人たちをうまく避けながら、急いで階段下へ駆け寄る。