桜まち
たくさん買い物をしたのだろう。
大きな袋を両手に二つずつ提げたどこぞの知らないお婆ちゃんが、ふらふらしながら階段を下りてきていた。
この階段は急な上に手すりもなくて、踏み外したらひとたまりもない。
「お婆ちゃん、大丈夫? 私、下まで荷物持ってあげるよ」
「あら、トキコさんちのお孫さんだね。ありがとねぇ」
よく知らないお婆ちゃんだと思っていたけれど、相手は私のことを知っているみたいだ。
何処のお婆ちゃんだっけ?
後でうちのお祖母ちゃんに訊いてみよ。
荷物を持ち、手を差し出してお婆ちゃんを支えながらゆっくりと一階まで降りた。
「ここの階段は急だからさ、今度はお店の人に頼んだほうがいいよ」
「そうだねぇ」
解っているのかいないのか、ありがとねぇ。と何度もぺこぺこと頭を下げ、商店街の先へとのんびり消えていった。
あれは、また同じことをするな。
小さな背中を苦笑いで見送って、私は再び洋食屋に戻った。
席に座ると、丁度でき立てのハンバーグセットをおばちゃんが運んできた。
「はい。いつもの」
「ありがと」
「ハンバーグ少し大きめにしておいたよ」
おばちゃんは、こっそりと耳打ちしてウインクをする。
「それにしても、さっきのよく気がついたよね」
「たまたま、外を見てたからね」
お冷のお水を口にして、フォークとナイフを手にした。
「あのお婆ちゃん、お煎餅屋のタイさんだよ」
「お煎餅屋?」
ああ、商店街の真裏にあるやつか。
小さい頃に何度か行ったけど、あっちの通りにはなかなか行かないから、すっかり忘れていた。
そうか、お煎餅屋のタイさんだったのか。
随分年とっっちゃったなぁ。
昔は背中もしゃんとしていて、もっとしっかりした足取りだったのにな。
私が成人しているんだから、タイさんも年をとったってことだよね。
なんとなく心がしんみりとしてしまう。
とにかく、タイさんが怪我をしなくてよかったよ。