桜まち
熱々のハンバーグを催促し続けるお腹へおさめていると、櫂君からLINEが入った。
朝の誘いを断ったお詫びなのか、夜には時間が空くので飲みましょう。と誘われる。
わざわざ無理しなくてもいいよ。と返したんだけど、意外と頑固なところのある櫂君は、絶対に行きますから。とLINEを締めくくった。
お腹も満たされ、レンタルショップへ足を向けた。
櫂君がやってくるまでの間の暇つぶしに、映画を一枚借りた。
洋画は字幕を読むのに疲れるので邦画にする。
ちょっと感動できるやつがいいな、とほろり泣けるのを選んだ。
レンタルショップの袋を片手に、久しぶりにタイさんのお店へちょっと寄ってみることにした。
お煎餅でもバリバリ齧りながら、映画っていうのもいいかなって思ったんだ。
裏の通りへ入ると、商店街のある表通りとは対照的に、とってもひっそり静かな雰囲気が漂っていた。
人通りがないわけじゃないけれど、賑わいはない。
少し歩いていると、昔ながらの佇まいを残すお煎餅屋さんが現れた。
軒先には、お煎餅の入った大きなガラス瓶がいくつも並んでいる。
一袋買っても食べ切れなくて湿気てしまうことが多いので、ばら売りをして貰えるのは色々な味も楽しめるし嬉しい。
「こんにちはー」
声をかけると、四〇代くらいのおばさんが顔を出した。
「いらっしゃいませ」
「お煎餅ください。この塩のやつを二枚と、海苔のついたのを二枚。あとー、このエビのも二枚」
「ありがとうございます」
そうおばさんが言ったところで、タイさんがひょっこりと顔を出した。
「あれ。さっきは、どうも」
タイさんは皺くちゃの顔を更に皺くちゃにして笑う。
とても可愛らしい笑顔だ。
若い時は、綺麗な人だったんじゃないだろうか。
そんな風に見える、キュートな笑顔だった。
「いえいえ」
顔の前で私が手を振ると、タイさんがおばさんの用意してくれた私のお煎餅の入った袋を横からさらった。
すると、徐に並ぶお煎餅のビンの中から手当たり次第にじゃんじゃかお煎餅を詰め込んでいく。
おばさんと私は驚いて目が点。