桜まち 
櫂君




  ―――― 櫂君 ――――



「ビールお代わりっ」

会社から少し先にある居酒屋で、櫂君とテーブルを挟んで向かい合っていた。

この後輩の櫂君。
愁傷な性格をしているようで、こんなどうしようもない先輩である私の面倒をいつも快くみてくれている。
仕事に嫌気がさしたり、ストレスがたまり始めると、いつもこうやって飲みに誘ってくれる。
なんとも気の利く後輩君だ。

櫂君は、同期ちゃんや先輩ちゃん。
それに、今年の四月に入社してきた新人ちゃんたちにとても人気があった。

“ちゃん”というのは、相手が全て櫂君に対して異性だからだ。

要するに、イケメン君なのだそうだよ。

私は余り気にした事はないけれど、櫂君見たさに他の部署の子達が覗きに来る、何てこともある。
櫂君は、そんな周囲のことにはまったく頓着せず、マイペースに日々を過ごしている。
きっと、今までもずっとそんな環境の中にいたから、こんな状況には慣れているのだと、私は推察していた。

私はといえば、櫂君を覗き見に来る子達を観察するのが結構好きで。

へぇ、彼女も櫂君が好きなのね。
ほほぅ、こんな女の子にももてるんだ、ふむふむ。

なんて、ちょっとした観察記録をつけたくなるくらい、そんな状況を楽しんでいた。
他人のそういう様子って、はたから見るとおもしろい生態観察になったりするんですよ。

なんていったら、きっと櫂君ラヴな女の子たちにはったおされるんだろうな。
気をつけなくちゃ。


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