桜まち
望月さんは玄関ドアを背に、その場に座り込んでイライラしたように頭をかきむしっている。
こんな寒空なのに、部屋に入らないのかな?
気になりつつも、関っちゃいけないという思いもあって、開けていたドアを一旦閉めてキッチンに戻り腕を組む。
変に話しかけても、またストーカーって言われるのが落ちだよね。
私もこれ以上、嫌な思いはしたくない。
外の様子を気にしないようにして、再び冷蔵庫をあさり冷凍庫にうどんを発見した。
寒い夜にはあったかいうどんですよ。
むふふと笑い、一人用の土鍋を取り出した。
たいした具材はないけれど、一人前の鍋焼きうどんを用意して火にかけて煮えるのを待っている間、やっぱり望月さんのことが気になってきてしまった。
まだ寒空の下にいるのかな?
気づかれないようにそおっと玄関ドアを開けると、寒そうに上着の襟を合わせて、望月さんがさっきとほぼ変わらない姿勢で座り込んでいた。
本当に、何やってるんだろう?
風邪ひいちゃいますよ。
望月さんは、カタカタと貧乏ゆすりのように足を揺らし、ポケットから携帯を取り出してどこかへかけている。
けれど、相手が留守なのか繋がらないみたいで、何度か繰り返したあと、諦めたようにまた携帯をポケットへしまいこんだ。
外は、ビューッと冷たい風が吹いている。
このままだと、本当に風邪を引いてしまうんじゃないかと心配になってきた。
もう一度ドアを閉めて、腕を組み考える。
もしかして、部屋に入れないのかな?
鍵を失くしちゃった?
だとしたら、大変だ。