桜まち
「寒くないですか?」
遠慮がちに声をかけると、何故だか睨まれた。
寒いに決まってんだろ! とでもいうところでしょうか。
何も悪いことをしていないというのに、なんだかとっても悪いことをしている気にさせられる。
それだけ私ってば嫌われているって証拠よね。
あー、落ち込む。
けれど、放っておくわけにもいかないよね。
良かったら、お祖母ちゃんと連絡がつくまで家で暖を取りませんか?
と言いたい所だけれど、きっと断られるんだろうな。
しかも、ギロリという睨みつきで。
「あの、今日のところはとりあえず、お知り合いのお家へ行かれてみてはいかがでしょうか?」
躊躇いがちに提案すると、溜息とともに落ち込んだ声が返ってきた。
「色々当たったけど、近場の知り合いは全滅だった」
それはお気の毒に……。
「それに、どうしても今日は家に入りたいんだ」
吐き捨てるように零した後、望月さんは、クシュンッと一つくしゃみをする。
やっぱり、外にずっと居るのはマズイよね。
私がどう言われようと、この際もういいや。
嫌われているとはいえ、一目惚れした相手です。
せっかくお隣さんにもなれたのだし、これも何かの縁でしょう。
こんな世知辛い世の中だけれど、助けてあげたいと思う人情もあるのです。
「あのぉ、良かったら、うちに入りませんか? ずっとそこに居るわけにもいかないでしょうし、うち、あったかいですよ」
ボソボソッと小さな声で伝えると、望月さんはかなり躊躇っている様子。
そりゃそうだよね。
相手はストーカーだと思っている女だもんね。
そんな女の家に、のこのこと入り込むわけないよね。
だけど、風邪ひいちゃうとやっぱりしんどいだろうし。
ここは、何とか警戒心を解いていただかなければ。
「お祖母ちゃんと連絡が取れるまでの間、どうですか? 何にもしませんよ。なんなら、半径一メートル以内には絶対に近づきませんし」
そう言い添えると、逡巡した後に、望月さんが立ち上がった。
「絶対に近寄るなよ」
ときっぱり言い添えて。