桜まち
「写真でも撮るのか?」
携帯を見ているとそう言われて、なんのことか解らずに首をかしげた。
「友達からのLINEですけど……」
そう返事をしてから、隠し撮りすると思われたんだと気づき、慌てて弁明する。
「あの、隠し撮りとか絶対ないですからね。私、本当にストーカーじゃないんですからっ。紅茶だって、本当に何も入ってないですよ。なんなら私のと交換します? それとも、お湯を沸かすところからご自分でやられてもいいですし。あ、それだとティーパックの疑いは、はれないですよね。えーっと、えーっと。じゃあ、外の自販機にあるあったかいコーヒーとかの方がいいですかね。だったら、問題ないですよね」
必死で言うと、ちょっと笑われた。
余りに必死すぎただろうか?
だけど、ストーカーだけは本当に勘弁して欲しい。
「うどん。食わせてくれんだろ?」
「ああ、そうだった、そうだった」
催促されてキッチンへ行き、土鍋に火を入れる。
すると、さっきの必死さが伝わったのか、望月さんは恐る恐るという感じだけれど、私が入れた紅茶を口にしていた。
その姿に、少しだけでも信用してもらえたとほっとする。
うどんをグツグツさせた土鍋をテーブルに運んで蓋をあけると、出汁のいい匂いが鼻腔をくすぐった。
考えてみれば、櫂君が来る前に小腹を満たそうと考えてからもう随分と経っている。
お腹が空いて当然だ。
望月さんは、湯気の立ち上る土鍋の中身を見てぼそりと零す。
「ネギと揚げしか入ってない……」
まったく遠慮のない人です。
仕方ないじゃないですか、元々料理なんてしないのですから材料なんてあるわけないし。
ネギとお揚げがあったのが奇跡的ですよ。
望月さんの言葉はスルーして、一人前のうどんを二人で分け合って食べた。
この状況だけを考えれば、なんとも仲のよい恋人同士のようだけれど、半径一メートル以内に近づけない私は、彼から離れた場所に座っているのでなんともおかしな感じだ。