桜まち
「そういえばあんた。結構いいところあるんだな」
え?
なんのことだろう? と顔を上げると、さっきまであんなに険しい目つきをして私のことを見ていたのに、その顔は穏やかに緩んでいた。
「松葉杖のおばさんの袋、持ってやってただろ?」
松葉杖って、コンビニの時の事ですね。
「ああ。あの人、ここのマンションにずっと住んでる人で、知り合いなんです。それに、同じ場所に帰るんだし」
コーヒーを淹れて持っていくと、小さくサンキュと呟く。
そのささやかな感謝の言葉に、心がきゅんとなった。
横暴だれけど、垣間見える優しそうな表情や言葉に、つい嬉しくなってしまう。
私は、また一メートルほど離れた場所にぺたりと座り、同じようにコーヒーを飲んだ。
「それに。今日も商店街で婆さんの荷物、持ってやってただろ?」
「え? それも見てたんですか?!」
私は驚いて、望月さんの顔を見返した。
望月さんこそ、私のストーカーなんじゃないですか?
という冗談を言いそうになったけれど、また気まずい雰囲気になりそうなのでやめておいた。
「あのお婆ちゃんも、知り合いなんです。タイさんていって、商店街の裏にあるお煎餅屋さんのお婆ちゃんなんですよ。あ、そうだ」
私はタイさんがたくさん持たせてくれたお煎餅を、望月さんに勧める。
「これ、タイさんがくれたお煎餅です。美味しいですよ。良かったらどうぞ」
「コーヒーにはあわないな」
ぼそりと望月さんは零したけれど、その割には立て続けに何枚もお煎餅を食べていく。
やっぱり遠慮のない人だ。