桜まち
素朴で昔ながらのお煎餅を二人でバリバリ音を立てて食べていると、電話が鳴った。
「あ、お祖母ちゃん」
表示された名前を見て声を上げると、望月さんがごくりとお煎餅を飲み込み通話に注目した。
「もしもし、お祖母ちゃん」
「菜穂子、悪かったね。お煎餅ありがとね」
慌てて呼びかける私とは対照的に、お祖母ちゃんがのんびりと昼間に置いていったお煎餅のお礼を言った。
「てか、何処に行ってたの? 何度も電話してたんだよ」
「あら、そうなの? それは、ごめんなさいねぇ。で、なんだい?」
「新しく入ったお隣さんが、鍵を失くしちゃって家に入れないの。スペアキー、ある?」
「あら、それは大変だね。ここにあるけれど」
「じゃあ、今からすぐにとりに行くよ」
「夜も遅いから、気をつけて来るんだよ」
「うん。わかった」
電話を切ると、希望の光に満ちた顔をした望月さんが、私を一メートル先から見ていた。
「私、お祖母ちゃんのところへ行って鍵を取ってきますので、ちょっとここで待っていてもらえますか?」
「あ、俺が自分で行くよ」
「けど、私の方が場所も近道も知ってるし。自転車もあるので、パパッと行ってきます」
自転車の鍵を手にすると、俺が行く。と望月さんも一緒に玄関を出てきた。
急いで自転車置き場へ行き、自転車へ鍵を差し込むと、一緒に下りてきた望月さんに横からハンドルを取られる。
「俺が運転すっから、道を教えて」
それって……、二人乗りで行くってこと?
な、なんか。
テンション上がる。
もう諦めようとしまいこんでいた一目惚れの感情が、ふつふつ熱を持ちこみ上げてきた。
ヤバイ、やっぱり好きだ。
遠慮とかない人で、睨んだ目とか超恐いけど。
さっきみたいな柔らかな表情や、素直に感謝の言葉を口にするのが本当の望月さんなんじゃないかって思えてならない。
この人のこと、やっぱり好きだよぉ。
声を大にして叫びたい衝動を抑え、早く乗れっ。と急かす望月さんに従い後ろにまたがった。