桜まち 
どうして怒ってるの?





  ―――― どうして怒ってるの? ――――




鍵を手に入れた望月さんと私は、マンションのエレベーターに乗り込みそんな会話をしながら三階の渡り廊下に出た。
すると、ドアの前に一人の人物がそわそわとした様子で立っているのが見えた。

「あれ? 櫂君?」

エレベーターを降りた私に気づいた櫂君が、こちらを驚いたようにして見ている。
そして、その僅か数秒後には、とっても怒ったような顔つきになった。

どうしたんだろう? と近づいて行くと、いきなり怒られた。

「菜穂子さん、何やってたんですかっ!」

櫂君に近づいていった途端そんな風に怒られて、私は驚きで肩をすくめる。

「何って、色々」

隣に立っていた望月さんも、櫂君の大きな声にちょっとびっくりしているようだった。
櫂君は、そんなことなどお構いなしに、肩を怒らせて私と望月さんを交互に見ている。

櫂君の態度に、変な揉め事に巻き込まれるのも面倒だ。と言うように望月さんはそそくさとした態度で、じゃあまた。と小さく言って手に入れた鍵でドアを開けた。

「あ、はい。また」

私が望月さんに軽く会釈するとドアが静かに閉まり、渡り廊下には櫂君と私だけになった。
その間も、櫂君はなんだか酷くご立腹の様子だった。

櫂君が怒っている原因がわからないまま、とにかく寒いので私は部屋に上がってもらうことにした。

「さすがに一二月ともなると、寒いよねぇ」

怒っている理由も解らないので、取りあえずそう普通に話しかけながら、点けっ放しで出かけてしまったエアコンの温度をもう少しだけ上げた。

「直ぐに暖かくなるからね。適当に座ってて」

櫂君は私の言葉が聞こえているのかいないのか、テーブルの前に突っ立ったままじっと何かを見ている。


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