桜まち
「櫂君?」
首をかしげながら近づくと、櫂君がビシッと指を差した。
「これ、なんですか」
櫂君は相変わらずの怒り口調で、望月さんと食べたあとのうどんの土鍋や紅茶やコーヒーのカップが片付けられないまま乗っているテーブルを指差した。
「土鍋とマグカップ」
私は、見たままを応えた。
「そうじゃなくてっ!」
櫂君がはき捨てるように、だけど怒りを溜め込んだみたいな静かな声でそういった。
それは、大きな声で怒られるよりも、なんだかちょっと恐い気がした。
「え? なに……?」
あんまり怒っているので、私はちょっと脳内がパニックになってきた。
だって、櫂君が怒るなんて、初めてのことなんだもん。
どんなに私のした仕事で間違いがあったって。
ランチを誘っておきながら、お財布を持って出るのを忘れたって。
部長からの仕事で残業に長々と付き合わせたって。
櫂君は、今まで一度も私に怒ったたことなんてなかったんだ。
しかもどうして怒っているのかさっぱりで、私はどうしたらいいのか分からずに、脳内は右往左往です。
「何度もLINE入れたんですよ」
「あ……。ごめん」
ポケットにしまいこんでいたスマホを出して見ると、確かに未読のメッセージがいくつもあった。
望月さんの鍵騒動で、携帯を気にしている余裕がなかったんだよね。
ごめん、ごめん。