桜まち 
「おっはよー」

私的に今日は望月さんとラブラブ出勤だったので、スキップでもしてしまいそうな足取りでオフィスに入り席に着いた。
けれど、隣からはねっとりとした目つきで睨まれる。

あれれ?
櫂君、その目はなんですか?

あ。
もしかして、昨日LINEを無視したこと、まだ根に持ってる?
案外ねちっこい性格なんだね。

「櫂くーん。そんな目してると、女の子たちに嫌われちゃうよ」

櫂君はモテモテ君なんだから、いつでもニコニコしていないとね。

「別にいいです」

あらら。

「もしかして、昨日のこと。まだ怒ってる?」

窺うようにして訊ねると、別に。とまた言われてしまった。

そうは言っても、目も見ずに、ぷいっとかされちゃってる私って、何?
やっぱりまだ怒ってるんでしょ。

「LINE無視したのは、ごめんなさいって。ね」

下手に出てみたけれど、まったく通用しない。
櫂君は、無表情で書類に目を通している。

もう、恐いんですけど。

いつもの気遣いばっちりの明るい櫂君じゃないと、仕事し難いんですけどー。

へそを曲げてしまった櫂君をどうやって宥めすかそうかと考えていたら、今日もお呼びがかかってしまった。

「川原、パソコン持って会議室」

部長が席に座ったまま指示を出す。

「了解でーす」

朝から会議ですか。
ご苦労なことです。

ノートPCを片手に席を立つ。

「櫂君。ちょっと行ってくるね」

そう言って一歩足を踏み出したところで、櫂君が思い詰めたように私を呼び止めた。

「菜穂子さん。今日,行っていいですか?」

無表情のままの櫂君は、私の目を真っ直ぐ見て訊いてくる。

「どこに?」

はて? と首をかしげると、昨日のリベンジです。と言って、櫂君はまた真っ直ぐ机に向かってしまった。

リベンジ?
昨日?

よく解らないまま、私はうん。と頷きを返して会議室へと向かった。



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