桜まち
櫂君は相変わらず無言のままの早歩きで、商店街を抜けるとお祖母ちゃんのコンビニへとスタスタ入っていく。
籠を手に取ると、片っ端からというようにお酒やつまみになる物を入れていった。
そんな姿に売上協力ありがとう。と思っていたら、お会計お願いします。とレジ前で言われてしまう。
ああ、そうなんだ。
これ、全部私のおごりなのね。
いいけどね。
LINE無視して怒らせちゃってるみたいだし。
このくらい、別にね。
レジに居た翔君に、よろしく。と声をかけると、毎度です、菜穂子さん。とにこやかにバーコードを通してくれる。
お会計が済むと、翔君がごそごそと棚の中からなにやら取り出した。
「これ新商品の試供品です。菜穂子さんにと思って、とておいたんですよ。どうぞ」
品物を袋に入れてくれたあと、翔君がそう言ってネイルチップのサンプルをくれた。
「そのデザイン、菜穂子さんに似合うんじゃないかな、と思って」
翔君は満面の笑顔でチップを差し出す。
「嬉しい。ありがとう」
素直に喜び受け取ると、背後から何故だか無言の圧力がかかった。
そおっと振り返ると、櫂君がさっきまでよりも更に機嫌の悪そうな顔つきで私と翔君を見ていた。
「か、櫂君?」
恐る恐る名前を呼ぶと、ぷいっ。とまた顔を背けられた。
一体なんなんでしょう?
なんかもう、お手上げなんですけど。
「喧嘩ですか?」
翔君が気まずそうにこっそりと耳打ちする。
そんなじゃないんだよ。という感じで私は首だけを振って肩をすくめた。
溜息を零し、翔君から貰ったネイルチップのサンプルも買ったお酒やおつまみたちと一緒にビニール袋へ入れて手に持とうとしたら、サッと横から袋を掻っ攫われた。
「僕が持ちます」
櫂君は缶ビールの入った重い袋をひょいっと持ち上げて、サッサとコンビニを出て行ってしまう。
怒っていても、やっぱり気遣いはばっちりだ。
「翔君、ごめんね。チップありがとね」
レジの翔君に声をかけて、直ぐに櫂君のあとを追った。