桜まち 


少しでも櫂君の怒りを静めるために、私はそんな来客用の品々を駆使して、コンビニの惣菜を盛り付けた。

まぁ、お皿に並べただけだけれど。

テーブルにそれらを並べて、ビールを注ぐためのグラスも用意した。

一見して、ちょっと豪勢じゃない?

普段の私の食生活からは、程遠い品数のものがテーブルには並んでいる。
いつもは、カップ麺やレトルトのカレーだけだからね。

テーブルの上に所狭しと並んだ品々に満足して、その前に座る櫂君を見てからビールを開けてグラスに注ぎ持ち上げた。

「カンパーイ」

明るく声を上げたんだけれど、櫂君は無言。

「かいくーん?」

声をかけたけれど、グラスに手を添えたまま、櫂君の動きは止まってしまっている。

電池切れ?
充電切れ?
どっちにしろ、動かない。

まー、乾杯なんて言ったけれど、何が乾杯なのかって話だよね。
こんなご機嫌斜めの櫂君と、お祝い的な状況なんて欠片もないしね。
とにかく、こんな気詰まりな状況でお酒を飲んだってつまらないわけですよ。
せっかくの美味しいお酒も、台無しになっちゃうじゃないですか。
なもんで、ご機嫌取り、ご機嫌取り。

「ねぇ、この箸置き可愛いでしょ? たい焼きだよ。美味しそうでしょ? ちょっとお腹の辺りからあんこがはみ出しているのがよくできてない? 私のは三色団子。本物みたいで食べたくなっちゃうよね。あと、このお皿。桜の花びらをかたどってるんだ。綺麗じゃない? 因みに、これ全部お客さんが来た時用にってお祖母ちゃんが買ってくれたんだけどね。これ使うの、櫂君が初だよ」

動きの止まってしまった櫂君を何とか動かそうと、私はあれこれ話しかけてみる。
すると、突如、櫂君が口を開いた。


< 91 / 199 >

この作品をシェア

pagetop