桜まち
よく見ると
―――― よく見ると ――――
「じゃあ。カンパーイ」
突如明るくなった櫂君が、グラスを持ち上げて高々と掲げる。
私も釣られてグラスを持ち上げると、そこへカチンと合わせてきた。
「今日は、とことん飲みますよー」
櫂君は、グラスのビールを一気飲みすると、すっくと立ち上がり勝手に冷蔵庫から次の缶ビールを持ってきた。
そして、何の遠慮もなく飲みまくる。
私が課長クラスのおっさんなら、いい飲みっぷりだねぇ。なんて褒めたくなるくらいだ。
だけど、ちょっと勢いがよすぎるのでは?
突然ガラリと気分の変わってしまった櫂君を不思議に思いつつも、いい飲みっぷりに少し釣られてしまう私。
だけど、余りのペースと飲みっぷりに、途中で心配になってきた。
「明日も仕事だけど、大丈夫?」
なのに、櫂君の飲むペースは一向に揺るがなかった。
「なるようになれです」
呂律の回らない櫂君が、櫂君らしくない発言をしてビールをがぶ飲みする。
櫂君てば、お酒に飲まれるとこんな風になってしまうのね。
外で飲んだ時には、こんな風に酔ってしまったところなど一度も見たことがなかった。
ちょっとヘロヘロになることはあってもいつも冷静で、会社のみんなで飲みに行っても周りの勢いに飲まれるなんてこともない。
どちらかといえば、私の方が危なっかしいと思う。
楽しくなってくると、ガンガンペースが上がってベロンベロンになるなんて事はよくあることだった。
だから、いつもならそんな私を櫂君の方が心配そうにして見ているんだけど、今日は珍しくも逆パターン。
ハイペースの櫂君に付き合ってしまうと自分の方がつぶれてしまいそうなので、櫂君の目を誤魔化しつつ私もビールを空けていく。