桜まち
それにしても。
「誰とでもって。誰?」
「それは……。色々ですよ。色々」
酔っている櫂君が何を言いたいのか、私はさっぱり解りません。
てか、もうそろそろお酒を止めた方がいいかも。
「ねぇ。櫂君、そろそろお開きにしない? 櫂君、かなり酔ってるみたいだし。ほら、終電も逃しちゃったら大変でしょ?」
気を遣って言ってみたんだけど、余計なお世話です。と返されてしまった。
けど、時間を見てみれば、あともう二〇分ほどで電車がなくなってしまう時刻だった。
「とにかく、ほら立って」
座り込んでいる櫂君の大きな体を引っ張り上げて、床に脱ぎ捨てられたままのコートを拾ってあげる。
「ほら。寒いから、コートも着てね」
まるで甲斐甲斐しい奥さんみたいに、私は櫂君にコートを着せてビジネス鞄を持たせた。
「菜穂子さんは、僕と一緒にいるのがイヤなんですか?」
玄関まで連れて行くと、座った目をしてそんなことを言い出した。
「イヤじゃないよ。だけどね、明日も仕事があるんだし。こんなにつぶれるほど飲んじゃったら、二日酔いとかで大変でしょ。部長に怒られちゃうよ」
宥めるようにいってはみたものの、座った目はそのままで納得している様子がない。
「菜穂子さん。あんなキラキラした爪のチップかなんか知りませんが。騙されちゃ駄目なんですからねっ」
騙されるってなんですか。
翔君が私を騙す理由ってなに?
もう、まともに付き合ってらんないよ。
「はいはい」
酔っ払いの相手を本気でしても仕方がないので適当に返事をして、靴を履かせて何とか外に連れ出した。