桜まち
櫂君の大きな体を支えていると、望月さんがそばに来て代わりに肩を貸してくれた。
「タクシーにでも乗せるか?」
櫂君を支えていた望月さんが、重いけど。といってもう一度櫂君を私に預けると、直ぐに大通りに走って出て行きタクシーを捕まえてくれた。
捕まえたタクシーに、望月さんと二人で櫂君を抱えて乗せる。
運転手さんへ行き先を告げると、爆睡してしまっている酔っ払いを乗せられてちょっとだけ迷惑そうな顔をされたけれど、櫂君を乗せたタクシーは無事に走り去っていった。
めでたし、めでたし。
明日、ちゃんと仕事に来なさいよー。
走り去るタクシーを見送ってから、望月さんへ向き直る。
「お手数おかけしました」
ぺこりと頭を下げると、タバコ買いに出たついでだし、別にいいけど。と歩き出し、望月さんはマンションそばの自販機の前で立ち止まる。
「今の彼氏?」
「え? いえいえ、とんでもない。ただの後輩というか、飲み友達というか。気の合うゆかいな仲間というか」
「ふ~ん」
私は望月さん、一筋です。
と言い添えたいところだけれど、出しゃばるのはやめておいた。
自販機から軽い音を鳴らして出てきた煙草を手に取り、望月さんは直ぐに封を開けると一本を口に銜える。
「吸う?」
煙草の箱をひょいっと向けられたけれど、首を横に振り、吸えないのでと断った。
そのままエントランスの前で、しばし煙草を一服。
その傍に、付き添うようにたたずむ私。
寒さに体がガチガチになっていて、せめてエントランス内に入りたいなと思っても、生憎と中は禁煙だ。
「寒いだろ? 部屋、戻れば?」
「あ、はい。でもいいです」
寒いのは辛いけれど、好きな人のそばには少しでもいたいのですよ。
だって、こんな時間に望月さんと二人きりになれるチャンスがやってくるなんて、思いもしなかったもん。
櫂君が呑んだくれてくれたおかげだよね。
櫂君さまさまですよ。