コイツ、俺の嫁候補。
「……やっぱりお前が必要ってことかな」

「え?」



その言葉がよく聞き取れなくて顔を上げると、優しく微笑む那央がすぐ近くにいる。

ドキ、と胸を鳴らしたのもつかの間、部室の方からがやがやと人の声がし始めた。



「やべ。二人が話してるのが見えたから、俺ネクラに任せて抜け出してきてたんだよな」

「あ……そうなの? じゃ早く戻らなきゃね」



思い出したようにすっとあたしから離れた那央に、ほんの少し寂しさを感じたのは秘密。

そういえば、あたしも休憩中に舞花の茶道を見に行かなきゃ。

校舎の中へ入ろうとすると、「縁!」と呼び止められる。



「今日の夜7時半、2年1組に集合」

「……は?」



2年1組って、那央の教室?

しかも7時半って、何でそんな時間に……。

首をかしげるあたしに、那央は意味深な笑みを見せる。



「この間の続き、聞きたくないの?」

「……あ」



“俺は、そういうお前が──”


先輩に愛のパンチをくらわせた日に、那央が言おうとしていた言葉を思い出す。



「待ってる」



甘い微笑みを残した彼は、今日もあたしの胸をときめかせて去っていくのだった。


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