コイツ、俺の嫁候補。
「……あのね、那央」

「ん?」

「あたし、お母さんのこと大好きなの」



背を向けたまま突然そんなことを話し出すあたしに、那央は「うん」とあいづちを打ってくれる。



「小学6年生の時、仕事で遅くなったお母さんに、初めてカレーを作ってあげたことがあって。
それだけのことなのに、お母さんは泣いて喜んでくれた」

「……うん」

「お父さんが突然死んじゃった時も……、『縁がいなかったらお母さんも死んでたかもしれない』って言ったの。あの時、あたしも愛されてて、必要とされてるんだなぁって実感した」



お父さんのお墓の前で、あたしを強く強く抱きしめて、『縁がいてくれてよかった……』と、泣きながら言ったお母さん。

あの時のことを思い出すと、いつになっても涙が出てくる。


今まで二人で色んなことを乗り越えてきた。

お父さんの代わりに遊んでくれたり、勉強を教えてくれたり。

高校受験も、一緒に頑張って、合格した時は一緒に泣いたっけ。



「お母さんはあたしを必要としてて、だからお母さんにはあたしさえいればいいって、どこかで思ってたのかもしれない。
……そんなわけにいかないのにね」

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